今年2009年は、しし座流星群がやや活発化すると予想されています。この理由について解説します。
流星の元となるチリの粒は、ダスト・トレイルと呼ばれるチューブ状のチリの粒の流れの帯となって分布します。ダスト・トレイルは何本もあり、この帯の分布を計算によって詳しく求め、流星群の活動を予測する手法のことを「ダスト・トレイル理論」と呼びます。
1999年に提唱されたこの理論が対象としたのが、しし座流星群です。1999年から2002年までに生じた流星嵐は、このダスト・トレイル理論による予報とほぼ一致した時刻に起こりました。このことにより、ダスト・トレイル理論の妥当性が確かめられたのです。
1999年から2002年までに観測された流星嵐は、およそ300年前よりも新しい時期に放出されたチリの粒が作るダスト・トレイルによって生じました。
一方、今年2009年の場合は、およそ500年前に放出されたチリの粒が作るダスト・トレイルによるものです。このダスト・トレイルの分布状況について図に示しました。また比較として、昨年2008年の状況と、日本で流星嵐が観測された2001年の状況も合わせて示してあります。
なお、図は、ダスト・トレイルを地球の軌道平面で切断した場合の断面図です。緑色の直線上が地球軌道の位置を示しています。またダスト・トレイルの楕円が明るい部分ほど、チリの粒の濃度が濃いことを示しています。
今年2009年は、1466年と1533年に母彗星から放出されたチリの粒が作るダスト・トレイルが接近しています。しかし放出時期が若干古いため、チリの粒の濃度が薄めになっています。 また日本で観測可能な時間帯の終わり頃に、ようやくダスト・トレイルに地球が到達します。 |
|
2008年の場合は、2009年と同じ時代に放出されたチリの粒が作る1466年のダスト・トレイルが分布しています。チリの粒の濃度は2009年より濃いのですが、地球軌道からは、少々離れた位置にありました。 実際は、ZHR(注1)値として80〜100個程度の規模の流星群活動が観測されました。なお、2008年は、日本では観測できない時間帯にダスト・トレイルと接近しました。 |
|
2001年の場合は、1776年、1699年、1866年という比較的新しいダスト・トレイルと、地球軌道がほぼ交差していました。濃度も濃かったため、1時間あたり数千個という見事な流星嵐となりました。 また、ダスト・トレイルは、ほぼ2カ所で地球と接近していたため、時間帯をおいてアメリカ(1767年のダスト・トレイル)と、日本付近(1699年および1866年のダスト・トレイル)の二度に渡る流星嵐が観測されました。 |
2009年に接近するダスト・トレイルの濃度は、2001年には遠く及びません。このため、流星嵐は期待できず、せいぜい数十分の1程度と考えられます。
一方で、チリの粒の濃度は薄めですが、2008年よりは地球軌道に近づくため、流星の数では昨年よりもやや多くなりそうです。
フランスのパリ天文台に所属し、2009年度国立天文台客員研究員の J. Vaubaillon (ヴォバイヨン)氏による予報と、国立天文台天文情報センターの佐藤幹哉の予報について、トップページにも掲載した表をこちらでも掲載いたします。なお、これらの予報は、昨年の観測結果も参考にしています。
ダスト・トレイル | Vaubaillon氏による予報 | 佐藤による予報 | ||
---|---|---|---|---|
予想極大 (日本時) | 予想ZHR (注1) |
予想極大 (日本時) | 予想ZHR (注1) |
|
1466年放出の ダスト・トレイル |
11月18日 6時43分 | 115 | 11月18日 6時12分 | 60 |
1533年放出の ダスト・トレイル |
11月18日 6時50分 | 80 | 11月18日 6時30分 | 160 |
両者の予報結果には、初期条件の仮定や、計算手法の差違などにより、極大の時刻やZHRの値に多少の違いがあります。ただ全体として「11月18日の6時台に2つの極大があり、2つのZHRの合計は200程度となる」という点では概ね一致しています。
予想上のZHR値は、あくまで理想的な空で観測した場合を想定した数値で、実際に見られる流星数とは異なります。では実際には、どのくらいの流星を見ることができるのでしょう。
日本で実際に見られるしし座流星群流星数について、グラフのように概算しました(関東の場合)。なお、予報は佐藤幹哉のものに基づいています。
しし座流星群は11月18日6時台に極大となり、ZHR=250程度となり最も活発になります。しかし日本では、これよりも早く5時頃に夜明けを迎え、空が明るくなってしまいます。この明るくなる直前は、流星が急に増加していくことがグラフからわかります。
ZHR値から計算される、実際に観察できるであろう流星数の概算も、グラフに示しました。6等星が見えるようなきれいな空では、空の明るくなる5時頃に1時間あたり約70個に達します。しかし、流星数は変化(増加)しているため、実際に4時から5時の1時間観察した場合には、見られる流星数は約35個となります。
同様に、4時から5時の1時間において、4等星が見えるような平均的な空では、およそ10個弱、2等星しか見られない市街地の空では、2〜3個となってしまいます。
関東よりも明るくなるのが遅い西日本の場合は、条件が少し良くなります。これは、ZHR値がさらに増加する5時以降も観察できるからです。
例えば、九州で観測する場合には、空が明るくなり始める5時30分くらいまで観察できます。4時30分から5時30分までの1時間に見られる流星数は、6等星が見えるような空ではおよそ70個と、関東の場合の約2倍になります。4等星が見えるような平均的な空でもおよそ20個弱、2等星しか見えない市街地でも4〜5個の流星が見られると計算されるのです。
今回の場合、極大の時刻が予測よりずれると、見られる流星数も大きく変化します。例えば、極大の時刻が予測よりも早くなった場合には、流星数が増加する時間帯も早くなり、日本で見える流星の数は多くなります。逆に極大の時刻が予測よりも遅くなった場合には、増加が遅くなり、流星の数は減ることになります。日本では、流星がほとんど見えなくなる可能性も考えられます。実際昨年は、予測よりも1時間ほど遅く極大が観測されました。今年の場合も、この程度の誤差は、まだ含まれていると予想されます。
もし、極大が予測よりも30分早くなった場合には、見られる流星数はおよそ2倍になります。逆に30分遅くなった場合には、およそ40%程度に減少してしまうでしょう。
2008年のしし座流星群の場合、実際の予測よりも極大時刻は1時間遅くなりました。また見られる流星数も予想よりも少なめという結果でした。
2009年の場合、2008年の観測結果も加味されていますので、多少精度が良くなることはあるかもしれませんが、やはり実際には観測してみないとわからない部分も多いです。もし観察する場合には、予測通りに見えるかどうかはわからないということを前提に、どのくらい見られるのか、ぜひ注目して臨んでください。