惑星のような大きなものではありませんが、金属や岩石でできた「小惑星」とよばれる比較的小さな天体が、 太陽系には無数に見つかっています。暗いものばかりなので、実際にごらんになったかたは少ないでしょう。 この夏、NASAの探査機が接近するベスタという小惑星があります。ちょうどベスタが明るく、双眼鏡なら見つかりそうです!
左:国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト提供
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太陽系の惑星をながめた図です。(惑星は相当大きめに示してあります)
火星と木星の間がやけに空いていると思いませんか?
ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラー(1571-1630)は、25歳のときの著作『宇宙の神秘』(1596)のなかで、火星と木星の間にはまだ見つかっていない惑星があるのではないか、という考えを書いていました。
ところで、こんな数列を考えて見ましょう。
0 3 6 12 24 48 96 192 384
最初の 0 はともかく、あとは数字を次々に2倍にしています。
今度は、それぞれの数字に4を加えていきます。結果は次のようになります。
4 7 10 16 28 52 100 196 388
それぞれを10で割ると
0.4 0.7 1.0 1.6 2.8 5.2 10.0 19.6 38.8
この数字の列、太陽から各惑星までの距離(太陽-地球間を1とする長さの表し方(天文単位))とよく似ています!(下の表)
この関係を1766年に発見したのは、ドイツのヨハン・ティティウス(1729-1796)でしたが、広く知られるようなったのは同じくドイツのヨハン・ボーデ(1747-1826)が1772年に書いた天文学の教科書によってでした。そこで、太陽から惑星までのおおよその距離を示すこのような数列の規則を、「ティティウス・ボーデの法則」とよんでいます。
太陽からの距離 | ティティウス・ボーデの法則 | |
---|---|---|
水星 | 0.39 | 0.4 |
金星 | 0.72 | 0.7 |
地球 | 1.00 | 1.0 |
火星 | 1.52 | 1.6 |
? | ? | 2.8 |
木星 | 5.20 | 5.2 |
土星 | 9.54 | 10.0 |
天王星 | 19.19 | 19.6 |
ドイツ出身でイギリスのウィリアム・ハーシェル(1738-1822)は、1781年、偶然にも土星の外側をまわる新惑星、天王星を発見します。太陽から天王星までの距離も、「ティティウス・ボーデの法則」によく当てはまっています!
となると、火星と木星の間が気になります!多くの観測家たちが望遠鏡を夜空に向け、未知の惑星さがしが行なわれますが、なかなか見つかりません。
偶然に「その天体」を発見したのは、イタリア、シチリア島のパレルモ天文台のジュセッペ・ピアッツィ(1746-1826)でした。
左:小惑星第1号「ケレス」の発見者ジュセッペ・ピアッツィ
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1801年1月1日、「星のカタログ」に記載のない8等級の天体をおうし座に見つけたのです。しかも翌日になると、その天体の位置が周囲の星々に対し、ずれていたのです。その次の夜も同様に天体の位置が移動していました。
ピアッツィは、その天体に対し、当時のシチリアの統治者フェルディナンド4世の名と、ローマ神話の豊穣の女神でありシチリアの守護神の名「ケレス」を組み合わせて、「ケレス・フェルディナンデア」(「フェルディナンドのケレス」の意味)と名づけました。さすがに長すぎるので、単に「ケレス」(セレスという表記もあります)とよばれるようになりました。
軌道の計算により、この天体は、火星と木星の間をまわる天体で、しかも太陽からの平均距離は約2.8天文単位であることが判明しました!(またしても「ティティウス・ボーデの法則」が当てはまりました)
翌1802年には、ドイツのハインリヒ・オルバース(1758-1840)が同様な天体、パラス(太陽からの平均距離は約2.8天文単位)を。また1804年には同じくドイツのカール・ハルディング(1765-1834)がジュノー(太陽からの平均距離は約2.7天文単位)を。 さらに1807年には再びオルバースによってベスタ(太陽からの平均距離は約2.4天文単位)が発見されたのです。
左:国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト提供
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多くの小惑星の分布を示した図です。(惑星は相当大きめに示してあります) ケレス(セレス)の軌道も示されています。
いずれも、惑星と呼ぶには小さすぎる天体であることから、ウィリアム・ハーシェルは「恒星のように見える天体」という意味で asteroid (アステロイド)とよぶことを提案し、この名称は広く使われるようになりました。 日本ではこれらの小天体を小惑星とよんでいます。
その後も、小惑星はぞくぞくと発見され、19世紀の終わり頃から写真観測の方法が導入されると、小惑星の発見はさらに加速されていきました。軌道が確定したものだけでも、2011年6月現在で28万個以上の小惑星が見つかっています。(資料:MPC Archive Statistics
)
火星軌道と木星軌道の間は、とくに多くの小惑星がまわっており、「小惑星帯」(しょうわくせいたい)とよばれています。ケレス、パラス、ジュノー、ベスタの4大小惑星も小惑星帯にあります。
左:小惑星「ベスタ」の発見者ハインリヒ・オルバース
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医師であり、アマチュア天文家のハインリヒ・オルバース(1758-1840)は、1807年3月29日、小惑星ベスタを発見しました。ローマ神話の女神で、かまどの火をつかさどる家庭の守護神の名から、ドイツの数学者・天文学者のカール・フリードリヒ・ガウス(1777-1855)が命名しました。
左:小惑星「ベスタ」の立体図(推定)
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Credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/PSI
小惑星帯のほとんどの小惑星が100km以下の大きさであるのに対し、ベスタの直径はおよそ530km(およそ東京-岡山の距離)もあります。
直径約530kmのベスタ(Vesta)と直径約950kmのケレス(Ceres)など、5つの小惑星の大きさ比較(火星は地球の直径の半分ほど)
ベスタの反射光のスペクトル(波長ごとの光の強さ)を観測してみますと、玄武岩質隕石という隕石のスペクトルに
似ていることがわかりました。
玄武岩というのは溶岩が固まって出来る岩石の一種です。つまり、ベスタの内部は、過去に溶けていたらしいのです。ベスタには、(地球のように)中心部に金属の核、そのまわりにマントルや地殻があるのかもしれません。
スペクトルがベスタと似ている小惑星も多数見つかっています。これらは「ベストイド」とよばれ、「ベスタの破片」であると考えられています。
地球に落下した隕石の中にも、ベスタのスペクトルと似たものがあり、これらも「ベスタの破片」と見られています。
(例:南極で見つかった隕石「Asuka-87272」)
左:小惑星探査機「ドーン」の打ち上げ
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Credit: NASA
小惑星帯の2つの小惑星ベスタとケレスに接近し、周囲をまわりながらこの2つの天体の観測を行う 「ドーン」(Dawn)というNASAの探査機が、2007年9月27日20時34分(日本時間)に打ち上げられました。
右:小惑星探査機「ドーン」(想像図)
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Credit: NASA/JPL
右:ベスタを調べる小惑星探査機「ドーン」(想像図)
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Credit: NASA/JPL-Caltech/UCLA/McREL
2011年7月16日頃には、「ドーン」がベスタに到着。約1年間そのまわりを回りながら観測を行います。(着陸はしません)その後、「ドーン」は小惑星ケレス(2015年到着)に向かいます。
ベスタは、4大小惑星の中でただひとつ、肉眼で見える限界とされる6等級よりも明るくなる時期があります。2011年夏はその時期にあたっています。最も明るくなる頃である7月下旬〜8月上旬のうち、月明かりが気にならない時期を選んでみました。双眼鏡でベスタが見つけられるでしょう。天の川が見える環境なら肉眼でも見える可能性があります。
7月26日〜8月7日頃の、真夜中頃になったら、天頂付近に広がる「夏の大三角」(こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブからなる三角形)をまず探してください。
こと座のベガ(織姫)とわし座のアルタイル(彦星)を結んで、その長さをアルタイル方向に、同じ長さ伸ばしたあたり (南の空)を見てください。暗い3等星以下の星からなる逆三角形の星々(やぎ座)があります。逆三角形の端から端までは約20度の角度です。(腕をのばしたときのこぶしの幅は約10度)
やぎ座付近の拡大と小惑星「ベスタ」の位置(7月26日〜8月7日)
左図(6等星まで記入されています)を参考に、双眼鏡でベスタを探してみましょう。 倍率の低い(10倍前後)双眼鏡のほうが、見える範囲が広くなり見つけやすいでしょう。 また、可能ならば、双眼鏡をカメラ用三脚などに固定して見ると、観察が楽になります。
この時期のベスタの明るさは5.7〜5.6等ですから、天の川が見えるようなきれいな空の下では肉眼でも見えるかもしれません。
月明かりはまぶしいので、月が出ていない時間を確認しておきましょう。月の出入り時刻の確認はこちらで。
小惑星の正式な識別表記では、名前の前に小惑星登録番号を添える形がとられています。
ベスタの場合は、登録番号が4であるため、(4)ベスタ とか 4 Vesta となりますが、このページでは単に「ベスタ」と表記しています。